第6章 綿毛の君
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…ぽちゃん……………ぽちゃん………
「煉獄さん…? 煉獄さーん!」
「…む!どうした、胡蝶!」
「どうしたはこっちの台詞ですよー?さつまいもの味噌汁、お口に会いませんでしたか?」
「そんなことあるわけないだろう!実にうまいぞ!」
「なら、そんなお行儀の悪いことしてないで、とっとと食べちゃってください」
今朝方任務から帰ってきた、この蝶屋敷の主である胡蝶しのぶは、その可憐な笑顔にうっすらと青筋を立ててそう言った。
「む、すまない、考え事をしていてだな…」
俺は今、蝶屋敷の子らやここで鍛錬をしている竈門少年たちに混じり、朝餉を頂いている。
俺としたことが、昨夜のことを思い出して呆けていたらしい。
味噌汁のさつまいもを、取っては離しを繰り返していたようだ。
(むぅ…なぜか、彼女のことが脳裏に焼き付いて心がすっきりしない…)
「なんだぁ?食わねぇなら俺がもらうぞ!」
「やめろ伊之助、人の好物を取るのは意地が悪いぞ?」
いつものように、猪頭少年と竈門少年がじゃれている。
「…煉獄さん、何かありましたか?」
竈門少年が気遣うように尋ねる。
だが、隊士の前で軟弱な姿を見せるわけにもいかない。
「いや、何もない!すまんな心配させてしまって」
俺は彼女のことを考える己の煩悩を制し、朝餉に集中することにした。
俺は今晩から任務に復帰する。
鎹鴉から、街の方で鬼が出現したとの知らせが入ったのだ。
もしかしたら、もう二度と彼女に会うことはないかもしれない。
そう思ったら、朝餉を食べ終わった俺の足は、自然と彼女のいる部屋へと向かっていた。