第6章 綿毛の君
「どちらから来た?」
「ええと…」
来た道をゆっくり頭の中でたどりながら煉獄さんに伝え、部屋まで送ってもらう。
先ほどまで私が寝ていた部屋につくと、彼はゆっくり、私をベッドの上に下ろして布団をかけてくれた。
「すみません…」
「このくらい、なんともない!案ずるな」
暗い室内に似合わない、はつらつとした声で話すので、私は思わずまた笑いそうになってしまった。
しかし、
「うっ、ごほっごほっ……」
笑う代わりに咳込んでしまった。
口の中に、鉄の味がじんわりと広がる。
(あぁ…)
口元を抑えた左の手のひらには、血が付いていた。
「いかんな…手ぬぐいと、なにか薬を探してくる!」
口元にもついてしまったのだろう、
煉獄さんは私を見てあわててそう言うなり部屋から出て行ってしまった。
……少し、さみしい
久しぶりに、誰かに優しくしてもらったからだろうか、こんな一瞬にも私は少しの喪失感を感じた。
でも、とにかく気分が悪い…
内臓たちが治ろうと頑張っているのがわかる。
そして眠いのだ。
体がこの不快さから逃れたいのか、眠ろうと私の意識を
沼の底に引きずり込むような感じがする。
(もう少し……あの人と話をしたかったな…)
柱というのはとても忙しい。
(着流しを着ていたから、まだここで療養中なのかしら…)
(でも会って話ができる機会などそうそう訪れないわよね…)
そんなことを考えているうちに、私は眠りに落ちてしまった。
*
手ぬぐいと薬を探しに、俺は診察室へと向かう。
外傷はもう消えているようだが、鳩尾を貫かれたのだ、彼女はまだ動いて良い状態ではない。
(それにしても、あの傷の治りの早さ…異常とも言えよう…)
一瞬、彼女は鬼と関係があるのかという疑問が浮かんだが、失礼に当たるだろう、すぐにその思考を拭った。
そうこうしているうちに桶と手ぬぐいが見つかったので、ひとまず俺は桶に水を張り、"腹の痛み止め"と書いてあった薬を手に取り、彼女の元へ向かった。