第6章 綿毛の君
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私は庭に出て、月を見上げていた。
あまりにもそれが美しかったので、人の気配に気が付かなかった。
私の右奥の方で何かが落ちる音で、そこに人がいたことがわかった。
私は一瞬、その人物を見て…
(綿毛…?)
と、思ってしまった。
その人の…彼の頭髪は、橙色で、毛先のみ燃えるように赤く染まっていたからだ。
おまけに濃緑の着流しを着ていたことも、相まって…
(あぁ、あれは…炎柱の…)
それが月明かりで綿毛に見えてしまったのだ。
思わず、くすっ と笑ってしまった。
その彼がこちらに駆け寄ってきた。
私は笑ってしまったのがばれたのかと思い、急いで表情を戻し、身を正した。
笑ったことについて何か言われる前に、私は
「…煉獄……さん?」
と、声をかけた。
その後私は、彼から他の隊士や乗客の人たちも無事だったことを聞いた。
すごく安心した。本当に良かった…
しかし…さっきから、気持ちが悪い。
正確には、目覚めたときから…
話を聞いて、ほっとしたのもあるのだろうか、立っていられず、右手で口元を抑えてよろけてしまった。
(倒れる…!)
と思った時には、私は炎柱の彼、煉獄さんに抱き留められていた。
(………ッ)
殿方の腕や体が、こんなにも頼りがいのあるがっしりとしたものだと、私は知らなかった。
「部屋に戻ろう」
そういう彼は私を横抱きにしようとする。
「あっ、いやっ、自分で歩けますので…!どうかおやめください」
柱でもあろう方に、そんなことはさせられない。
しかし、拒む私に
「まだ君は本調子ではない、出血量も多かった。無理はしない方がいい、何も言わず俺に甘えていなさい。」
彼はそんなことを言う…
私は情けなく、恥ずかしく、
「……はい…」
蚊の鳴くような声での返事しかできなかった。