第6章 綿毛の君
「はは……うぇ…」
庭には、空を見上げて佇む、美しい女性がいた。
彼女のもつ雰囲気が俺の母上とあまりにも似ていたので、持っていた芋を落としてしまった。
(好物の芋を落とすとは…ふがいなし!)
芋が地面に落ちる音で我に返った俺の心に、一瞬、そう思う自分が現れたのだが、
音に驚いたのだろうか、彼女もこちらに顔を向けた。
亡くなった人は、戻らない。
俺はその女性が、共に上弦の参、猗窩座と戦った隊士だと理解した。
思わず止めていた呼吸を再開して、動揺をみせまいと集中する。
転がった芋はそのままに、俺はぼんやりとこちらを見つめる彼女の元へ駆け寄った。
(怪我は…大丈夫なのだろうか)
彼女の細い腰を、猗窩座の太い腕が貫いていた光景が頭によみがえる。
「煉獄……さん?」
先に声をかけたのは、彼女だった。
声までも、一本芯の通った美しいものだった。
なぜ俺の名を知っているのか疑問に思ったが、それよりも、彼女の体が心配であった俺は
「君、腹の傷はもう大丈夫なのか?……すまなかった、守ることができなくて…柱として不甲斐ない」
そう言う俺の顔を、彼女は眉をハノ字にして覗き込んだ。
「それは、違います、そんなこと、おっしゃらないでください…実際今、私はこうしてあなたとお話ができています。
傷も…完治はしていないようですが、既にふさがっています。…あなたも、もうお体はよろしいのですか?…他の隊士…乗客の皆さんは…?」
俺は、一番酷い怪我を負ったであろう自分のことよりも他人の心配をする彼女が愛らしく、思わず笑みがこぼれてしまった。
ごまかすようにすかさず、
「列車の乗客も、全員無事だ!けが人は大勢だが、皆命に別状はなかった!」
右の拳を胸の前で構え、そう告げると
彼女は安心したように穏やかな表情になった。
「…そうですか、よかった…」