第4章 我武者羅
私は部屋に戻り、汚れてしまった患者衣と包帯を取り払い、用意されていたぬるま湯と手ぬぐいで体を拭こうと、姿見に向き合った。
そこには、どこからか入ってきた月明かりが妖しく照らした、こけてやつれた顔と、痛々しい傷跡の残った女体が写し出されていた。
また私は泣いた。
自分の悲惨な姿が悲しかったのではない。
こんな傷などすぐ消える。
でも、自分よりも生きていてほしかった人を守れなかったこと。自分の未熟さが招いた、己の破滅。
それらが私の心に与えた傷は、深く焼付いて消えることはないだろう。
悲しくて、何もできなかった。
次の日も、その次の日も。
わたしは何日もそうして、何をするわけでもなく
屍のように過ごしていたと思う。
そんなとき、大きな包みが私宛に届いた。
中を開けてみると、そこには新しい隊服と刀と…ブーツ?
…それと、手紙が入っていた。
手紙は“産屋敷 耀哉" という人物からのものだった。
(…産屋敷……)
私は、この屋敷でまだ目覚める前、
誰かが側に来て 私に話しかけていたこと、
その人物が、自らのことを"産屋敷"と言っていたことを
唐突に思い出した。
この、"産屋敷"という人が、あの女性が言っていた"お館様"であることを理解した私は、逸る手で手紙の封を開けた。
そこには、今回の戦いで十二鬼月である下弦の参を討伐したことを労うお言葉、
負傷し、最愛の兄弟子を失った私に同情するお言葉などが綴られていた。
終わりには、私のために新しい隊服を、縫製係の前田という人に、刀を鉄穴森という刀鍛冶に頼み、用意させたとあった。
お館様直々に…なんと有難いことなの……
私は改めて包みの中身に視線を向ける。
大切な人を失って、どんなにつらくても
やはり私には鬼殺の道しかないのだ。
わたしは隊服をつかみながら、稔さんから託されたものを
また繋いでいかなくてはと、心に誓った。