第17章 駆られる ※
額に手を当て悲しむふりをする。
手の陰からの表情を伺うと、彼女も驚いたような顔をしている。話を信じてくれたようだ。
「……そう…だったのですね……眠っている間、お世話をしてくださりありがとうございます…。」
ベッドの上で手をつき頭を下げる。
彼女はそういう子だ。
髪を掬い耳に掛ける仕草が色っぽく、白い頬に手をのばす。指先に触れた皮膚は艶やかでたまらない。
「っ…ぁの、私は信者のひとりだったのでしょうか?すみません…大切なことなのに覚えていなくて……」
そんなことどうだっていいのに。申し訳なさそうに視線を下げる彼女をもっといじめたくなる。
「あぁ……うーん、そうだね。君は信者であって、俺たちは夫婦で……いや、こんなことを言っても混乱するよね…忘れてくれるかい?」
"ごめんね"と無理に笑ってみる。は悲しそうな顔をしているけれど俺は嬉しかった。都合の良い展開だから。
白羅族の血肉は鬼の体を劇的に強化させる。
とはいえ、これまでに俺が食べたのはひとりだけ。数が少ないうえに鍛錬を重ねた者は上弦の鬼をも圧倒する力を持つから、そもそもの出会える機会が稀なのだ。
前に食べた白羅族も、この俺が夢中で貪るほど美味しかったのに、はもっと美味しそうな匂いがする。早く食べてしまいたいけど我慢。肉の欠損は生死にかかわるけど、血なら生きている限り体内で作られる。だからその極上の血を頂きながら彼女との夫婦生活っていうのを、しばらく楽しみたいと思った。
手洗いや風呂など、この部屋の説明をし、足枷についても記憶が戻るまで、少なくともここでの生活に慣れるまでは、の安全のためにもつけさせてほしいと伝えたところ、彼女も快諾してくれた。
あーあ、やっぱり俺はついてるなあ。