第17章 駆られる ※
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……温かな布団の中…。
隣には私の手を握り微笑みを向ける愛おしい人……。
私もこの彼に笑みを返す。
……この人は、誰だったか……。
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「おはよう」
「ん…おはよ」
ふかふかの、整えられた綺麗なベッド。
目を開けると虹色の瞳と目が合った。その人はベッドの側に座り心配そうに私の顔を覗き込んでいた。
私の手を握るその手は冷たい。この頃、夜は冷え込むようになってきたから…と思い、彼の手を温めようと布団の中に入れた。
彼の瞳が揺れる。私の行為に驚いたようだ。
どうして?今みていた夢の中で一緒に眠っていた人はあなたじゃ……
………あれ?…違う。
この人は…誰……?
急いで繋いでいた手を離し、起き上がる。
「ぁ、あの…」
彼も手を引き、少し離れる。
表情は先ほどよりも柔らかくなり、私の言葉を待っているようだった。
「……ここは、どこですか?」
彼は何かに気づいたようで少し目を大きく開き、その後ここは万世極楽教という彼が教祖を務める宗教組織の建物の一室ということを教えてくれた。
「教祖様……私はどうしてここに?」
彼の言葉に頷きながらも、なぜ自分がその教団の建物にいるのか全く分からなかった。自分は信者なのだろうか?いや、違うと思うが考えてもわからない。
……と、いうか………なにもわからない…。
自分のことが何も。
……私は……誰?
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人間は脆い。
何らかの大きなショックを与えれば記憶が揺らぐと思っていたが、まさか本当に無くなってしまうとは。
俺の話を聞くは、昨日までの様子とは一変して子兎のように戸惑っている。可哀想に。
顔面はみるみるうちに蒼白となってゆく。
どこまで記憶があるのか探るために名前を呼んでみるが、やはりそれすらも覚えていないようだ。それでは…
「………まず、君が生きていてくれて本当によかった…。数日前、俺たちが乗っていた自動車が事故にあったんだ。お互い大きな怪我はなかったけど、君は打ち所が悪かったのかしばらく眠ったままで……。」