第17章 駆られる ※
……どうすれば…いい…
考えてもわからない。
体は根を張ったように動かない。
「…っ!」
化け物が右腕を振りかざす。
その先端は私めがけて直進する。
…もう……だめ……
固く目を瞑った。
しかし、バサァと風を感じただけで衝撃は来なかった。
恐る恐る目を開けると、
「お母さん!!!」
そこには父の部屋にあった短剣を手にした母がゆらりと立っていた。
「…、逃げなさい!」
「…っ!」
化け物が母の持つ短剣を一瞥し不快そうに眉間に皺を寄せる。
私は立ち上がり、部屋の出口へ駆けた。
「あ゛ッ…」
…しかし、化け物の攻撃が届き、左足の踵骨腱を斬られた。
そのまま飛び込むように廊下に身を隠すが立ち上がることができない。
「……っ……みんな…」
父、母、兄の顔が浮かぶ。涙で前は見えない。
廊下を這い外を目指していると、後ろからやってきた母に抱えられた。
母の顔は見えない。だが私を抱く腕や足は傷だらけで出血している。
「はぁ…はぁ……」
蔵に逃げ込むと、向かい合わせに座らされた。
「……母さんはもう…一緒に逃げられない……。」
血だらけの母は愛おしそうに私の頬を両手で包み込んでいる。
「ふっ…ふっ………そんな……」
耐えがたい…焦燥感と絶望。
「……生きて……幸せになって………」
コツンと、母が額を私の額と合わせて、呪文のようなものを唱えると、私の体は足元から透けるようにその場から無くなっていった。
「お母さん……!!!」
私は叫んだ………
ーーー
ーー
ー