第17章 駆られる ※
「……力抜いて…」
恐怖で震えるの体を優しく抱きしめる童磨。
本当に嫌だ、嫌だ。だめ、やめて……
「…!!」
下腹部に鋭い痛み。
自分の唇を思いきり噛み、口内に鉄の味が広がる。
「はっ、ぁ…はっ……」
体を襲う圧迫感は呼吸をすることを忘れさせ、息を吸えず苦しい。
何も感じたくない。
何も考えたくない。
…杏寿郎さん……
ただひとつだけ、閉じた瞼の裏に想い人を描こうとするが、
涙が滲むだけで現れてはくれなかった。
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ーーー
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「……………っ!っ…!あなたは、生きるのよ…生きて、どうか…幸せになって…。悲しいことは、全部忘れて……私たちのことも、忘れていいから………生きて…」
…誰……お母さん…
ここは家の……蔵の中。
……そう…。
私たち家族はその日、いつも通りの一日を終えて、それぞれ寝床に着いたんだ。
でも、その後すぐに物音と男性の話声で目が覚めた。
父に客人が来たのだろうかと思ったが、こんな時間に?
声の主が気になったが、なにか嫌な予感がして隣の兄の部屋の襖を開け、入る。
「」
兄も起きていた。
「兄さま…誰かな…」
兄の存在をみとめほっとし、側に寄る。
バタンッッッ!!!!
「っ!!!!」
外側から戸を急に何かに蹴破られた。
と同時に、力なく兄が倒れてきた。
…声が……出なかった………。
叫びたいのに……目の前で、怖ろしいことが起こっているのに………。
「あっ……兄さ……」
抱えた兄の寝巻きに血が滲んでいく。
誰が……こんなこと………
ゆっくりと目を、腕の中の兄から破られた戸の向こう側にいる人物に移す。
そこには洋装の男性が……化け物か、
その右腕は太い縄のように長く、蛇のように宙をうねっていた。