第17章 駆られる ※
「ぇ…?……知らない…会ったこと、あるわけない…!」
心臓の鼓動がさらに早くなる。
「ははっ、いいよ。君はまだ小さかったから…。白羅族のちゃん。また会えてうれしいよ」
「何、言って……はくらぞく…?」
鬼が言っていることは理解できなかったが、"白羅族"という言葉が気になった。
立ち上がり、側に転がっている枷をつまらなそうに蹴るその鬼に聞き返した。
「君…もしかして自分が何者か知らないの?」
「……」
「そっか…。可哀想に。じゃあ俺が教えてあげる。白羅族がどんな奴らで、どんな殺し方をするのか…」
ふふんと、少しも可哀想と思っていなそうなその鬼は、子供のように楽しそうで思わずたじろく。
記憶……考えないようにしていたけれど、私には昔の記憶がない。
この鬼はその理由を知っているのだろうか。まさか……
話を聞いてはいけない気がするのに、この時の私は好奇心が勝っていた。
「…白羅族はね、古い歴史を持つ傭兵部族で、すごく…楽しそうに人を殺すんだ。頑丈な肉体を持っているから武器は使わない。手刀で十分だからね。」
「手刀…」
「すごいよね、まるで鬼のようだ…。でも彼らは人間で、国内外問わず各地の大名や皇帝に仕え、生業として対人戦闘をしていた。俺も見たことがあるよ。」
"鬼になったばかりの頃だなぁ、懐かしいよ"と続け、牢の中のものをあれこれ触りながら話していた鬼は、こちらに戻ってきて私の前に座った。
「君たちが傭兵部族として戦っていた時、俺たちの間で言われてたんだぜ? "白羅族の後には餌場ができる"って。末端の鬼たちが死体に群がってたなあ!」
ははっと笑う鬼。
「君も人を殺すの、あー…今は鬼を殺してるのか。楽しくて仕方ないでしょ?」
「そ…んなこと…っ」
ドクン…ドクン…
話の各所に心当たりがあり、否定ができないことに焦る。
そうだ…本当は……鬼の首を斬る時、興奮して全身がそばだっていた…。