第16章 暁闇の元
私たちは神社に向かいながら、射的をしたり金魚すくいをしたりして(ふたりとも勢いが良すぎてすくえなかったけれど)楽しんだ。
杏寿郎さんと一緒に食べた屋台の焼きそばは、よそで食べるのよりずっと美味しく感じた。
ふと前を見ると、もう神社まで来ていた。
夢中で歩いていたから気がつかなかった。
神社の境内への階段を上り、"少し休もう"と言う杏寿郎さんの後をついて本殿の脇の道を進むと、眺望の開けた場所に出た。
一脚だけそこに置かれた長椅子に、並んで腰を掛ける。
境内の端のため、祭りの灯りは届いているが賑やかさから離れて落ち着くことができた。
流れてきた夜風が、興奮で温まった体を鎮める。
……言うなら…今だろうか。
ずっと…考えていた言葉を空に並べる。
手元の姫りんごの飴に視線を落とし見つめる。
つやつやと灯りを反射して美しい。
左隣の杏寿郎さんは、眼下に広がる街並みを目を細めて眺めている。感情が揺れる様子はない。いつも通りだ。
りんご飴を持ち直し、大きく息を吸い彼の名前を呼んだ。
「私は…杏寿郎さんのことが…好きです。男性として…。稽古に身が入らないほど…。」
驚いたように目を丸くする杏寿郎さん。
何か言おうとするのを感じ、言われる前にと続けた。
「継子を……辞めさせていただきたく。」