第16章 暁闇の元
「杏寿郎さん」
「む?」
足を止めると彼も止まり目が合った。
「あの時、義勇さんのお屋敷で…その、挨拶できなくて…失礼な態度をとって、ごめんなさい。それと…おかえりなさい。」
頭を下げる。
「……!」
しばらくの間の後に、返事の代わりに彼の大きな手が私の頭を撫でた。
顔を上げると、そこにはやっぱり笑顔の杏寿郎さんがいた。
「可愛い継子が、一生懸命鍛錬を積んでいるんだ。失礼なんかじゃない。」
杏寿郎さん、怒ってない…
ほっと、私も強張っていた全身の力が抜ける。
「"義勇さん" と呼んでいたのには妬いたがな!師範として!」
はっは!と笑いながらそう言う杏寿郎さんにドキッとする。
そう言ってもらえて、実は少し嬉しい。
でも顔には一縷も出さないようにして"すみません"と返す。
今だけは素直に…この嬉しい気持ち、杏寿郎さんが好きという気持ちに浸っていたい…。
ーーーーーー
「わぁ…綺麗…!」
ふたりが祭りの屋台が並ぶ大通りに着いた頃には、茜空は夜空に変わっていた。
この通りをずっと進むと、神社がある。
これはその神社の神様のお祭りらしい。
焼きそばにかき氷。お面を売るお店や射的屋が立ち並び、目に楽しい。
それらの光が暗がりに浮かび幻想的だ。
これまで、任務の合間にお祭りを覗いたことはあるけれど、楽しむために訪れたのは初めてではしゃぎたい気持ちを抑えるのに必死だ。
どの屋台も気になってしまい忙しい。
「杏寿郎さん、あれ!…っ!」
気になった屋台があり彼の方を振り向くと、急に肩を抱かれた……のではなく、人にぶつからないよう肩に手を添え守ってくれた。
「ん?どうした?」
「………」
「?」
「ぇ…えと……あの…屋台が気になります……」
何でもないように顔を近づけて話す杏寿郎さん。
きっと今の私の顔はタコより赤いだろう。
……もう…どうして杏寿郎さんはこういうことを簡単にしてしまえるのか。
まるで恋人同士のようで、寂しい。