第16章 暁闇の元
その日は義勇さんのお屋敷に泊めさせていただいた。
目が覚めるともう彼はおらず、居間の机の上には竹皮に包まれたおにぎりがふたつと、その下に紙が挟まれていた。
"へ"
"これを食べていけ"
文面までぶっきらぼうな義勇さん。
彼がこの手紙を書いているところを想像して笑ってしまった。
義勇さんは最後まで優しかった。
杏寿郎さんとはまた違った温度感で私のことを思ってくれ、本当に嬉しい限りだった。
…会ったことはないと言われたけど、やはり夢の中の男の人と義勇さんが重なって頭から離れない。
、と私を呼ぶあの人たちは、誰なのか。
いや…私も……私自身は、誰なのだろう……。
米を咀嚼し、ごくりと飲み込む。
空になった竹皮をたたみ、立ち上がった。
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杏寿郎さんのあんな顔を見てしまったことで、すぐに煉獄家に戻る気にはなれず、
それからは藤の家を拠点にして任務に向かっていた。
しかし、あまり長い間藤の家にお世話になるわけにもいかず、どうしたものかと街の甘味処に入ると、
「あら?ちゃん?」
鈴の音のような声で名前を呼ばれた。
声の主は大好きな…
「蜜璃ちゃん!」
ぶんぶんとこちらに腕を振る彼女のもとに向かい、同じテーブルに着く。
"久しぶりね"とお互い再開を喜び軽く近況報告をする。
ここは蜜璃ちゃん贔屓のお店とのこと。
"じゃあここに来れば、蜜璃ちゃんに会えるかもしれないのね"
なんておしゃべりをしていると、
「最近、煉獄さんのお稽古はどう?」
痛いところを突かれてしまった。
なんて返そうかと濁していると蜜璃ちゃんは、"もう任務から戻られたのよね?"と加えた。
(長期任務の事、柱どうしなら知っているわよね)
「えと…戻られてからまだ稽古はつけてもらってなくて…。最近はすれ違っててお会いできてないの」
嘘ではない。つとお茶を口に運び視線を下げた。
「そうだったの~…。長期の任務の後は事務仕事も多いし、煉獄さんもきっとお忙しいのね。」