第16章 暁闇の元
「…」
「!」
義勇さんに名前を呼ばれて我に返った。
自分がひどい顔をしていたであろうことにも今気がついた。
義勇さんの向こう側には着流しの帯が無造作に落ちていた。
彼が持ってきてくれて、私を助ける時手放したのだろう。
「…ありがとう、ございました…」
立ち上がり前を押さえ、羽織を返す。
話しかけられたくない。
義勇さんの顔を見ないように帯を拾い、黙って身なりを整える。
「裏山に……行ってきます。」
…ひとりになりたかった。
裏庭に干した自分の隊服に着替え、稽古用の木刀を持ち逃げるように山に向かう。
隊服は義勇さんの言った通り乾いているはずもなく、身体にまとわりついて気持ち悪い。
色々な感情が溢れ、それぞれの名前がわからないまま心の中に乱雑に散らばる。
眩暈を感じしゃがみ込む。
どうしたら、いいの……。
*
どうしたのか、は煉獄と会った時から様子がおかしい。
元々、夏の日の下で免疫が落ちていたところに加え、連日鍛錬を積んでいたことで体力は少し落ちていたと見えるが、それとはまた違う……精神的なものだろうか。
裏山に行くと言う。
心配なので少ししてから様子を見に行った。
俺にできることなら話でも聞いてやりたいが、それで解決することとは思えない。
の姿を見つけ、気配を悟られない距離で止まる。
それまでしゃがんでいた彼女は顔を手で擦ったのち立ち上がり、木刀を構え周囲の木々を次々打っていく。
それはいつものらしくない、力強い…というより感情をまき散らすように激しい。
……俺はその場を後にした。