第16章 暁闇の元
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久方ぶりの長期任務。
以前であればひと月など瞬く間に過ぎていくほどの時間だったが、今回はとても長く感じた。
……ずっと会いたかった。に…。
今回は秘密度の高い任務だったため、外部との連絡をほとんど取ることができなかった。
は俺がいない間何をしているのか、寂しい思いをしていないか、休憩をとる時はいつもそんな考えが頭の中にあった。
任務先で見かけた華やかな服飾も、が纏ったらどんなに似合うことだろうかと想像するたび隣にいる薫子に笑われた。
"杏寿郎、相変わらず分かり易いわね" と。
俺は気持ちが顔に出る方ではないと思っていたが、やはり薫子にはなんでもお見通しのようだった。
今朝、晴れて任務が終わり皆がいるであろう自宅に戻ると千寿郎からは冨岡のもとで稽古をしていると聞いた。
玄関を開ければ、彼女の笑顔に会える…と思っていたから寝耳に水だった。
"そうか!感心感心!"
は頑張り屋だからな。炎の呼吸とは対照的な水の呼吸から学ぼうとする姿勢に彼女らしさを感じ、そんな返事を千寿郎にしたと思う。
したと思う。いつも通り。
本当は、顎が震えたことに戸惑っていたのが本音だ。
家には上がらず、そのまま踵を返し冨岡邸に向かうことにした。
"冨岡…か。冨岡……"
俺よりも一つ年上のその男は、無口だが一本芯の通った誠実な人物である。心から尊敬しているが、あの眉目秀麗さに心をときめかす女性隊士は多い。
「……むぅ…」
胸が…痒い気分だ。
どろどろとした重い何かが流れ込んでくるような。
……形容しがたい。
歩みを進めながら、ずっと手で握っていた小箱に視線をやる。
真紅のビロードのその中にあるのは、への土産だ。
薫子と選んだものだから間違いない、きっと彼女は気に入ってくれるだろう。
……早く渡したい。会いたい。
はじめて彼女に会った時もは真紅の洋装をしていたなと耽っていると、要がそろそろ着くと教えてくれた。