第16章 暁闇の元
固く目を閉じ来る衝撃を覚悟したが、それは来なかった。
「義勇さん…!」
ゆっくり目を開けると、目の前にはいっぱいの青。
義勇さんが抱きとめてくれ、一緒に倒れたのだ。
「す、すみません…風鈴…!」
顔を右に向けると、右手は義勇さんの左手に包まれていた。
その中にある風鈴も無事だった。
(よかった…)
「大丈夫か?」
「…!」
ち…近い…。
わたしに覆いかぶさっていた義勇さんは上体を起こしながらそう訊ねる。が、帯をしていない着流しがはだけていることを思い出し、離れようとした彼のうなじに咄嗟に腕をまわす。
「あの…無礼をお許しください…実は…」
彼のブルーと目が合う。
その深い色に見つめられると、心の奥底まで見透かされるようで…言葉に詰まってしまった。
(綺麗…)
目の前にある彼の顔立ちはやはり端正で、目を逸らすなんてことはできず
自分は何を言おうとしていたのかも忘れてしまった。
時が止まったかのような静かな沈黙。
しかしその沈黙はすぐに破られた。
「!!!!!」
大きな声が響いた。心臓がドクン、と大きく脈打つ。
真夏だというのに、背筋が凍ったとはきっと今のようなことを言うのだろう。
その声の主はこの屋敷の主ではない、ここにいるはずのない……
「きょ…」
「…煉獄」
どうして…ここに…。
足音に気がつかなかった。それほどまでに私はこの状況に没頭していたのだろう。
でも義勇さんは…?柱ともある彼ならば杏寿郎さんの来訪に気がついた筈だ。
なのに…どうして私を見つめたまま……
「……説明してくれるか、冨岡、どういうことか。」
杏寿郎さん。私の方をちらりとも見ず義勇さんに詰めるように尋ねる。
「……あれは…静かな夜だった…」
「…っ、義勇さんに稽古をつけていただいておりました。……勝手に申し訳ありません。」
「義っ……うむ。」
杏寿郎さんは義勇さんに尋ねたが、ヒリヒリした空気に耐えきれず口を挟んでしまった。
一瞬、杏寿郎さんが動揺したように見えた。
そんなに悪いことではないはずなのに……。