第16章 暁闇の元
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「いいお湯でした…」
ほぅと息をつき、誰に言うでもなく呟く。
義勇さんの屋敷に着くと、「冷えるから」と言われ、既に隠の人によって沸かされた風呂に入るよう勧められた。
「ない…」
取り急ぎ義勇さんが貸してくれた空色の涼し気な着流しを羽織ったけれど、帯が見当たらない。
着ていたものはすべて濡れてしまい、今は下着を身に着けていない。
早く見つけたいのに義勇さんもどこにいるかわからないし、呼びつけるのも憚られる…。
少し大きな着流しを羽織り、濡れた髪の毛を手ぬぐいで押さえながらそっと廊下に出る。
煉獄家とはまた違う、木の匂い。
前を押さえ義勇さんはどこかと屋敷を散策していると、縁側に風鈴の入った小箱が置いてあるのに気がついた。
透明無地の風鈴。
でも形がすずらんの花のようで愛らしい。
風鈴の音が鳴るのには丁度よい季節だ。
なんだかふいに、それを飾りたくなった。
義勇さんも飾ろうと思っていたのか、側には踏み台になりそうな木箱があった。
「よぃ…しょ…」
かがみすずらんを摘まみ、すと木箱に足をのせる。
「!!!」
「きゃっ!」
木箱の側面が脆くなっていたらしい。
箱が崩れ体が倒れる。
(風鈴がっ…!)