第16章 暁闇の元
「冨岡さん」
「……義勇」
「え?」
「義勇でいい」
「…じゃぁ…義勇さん」
「なんだ」
「私たち、昔どこかでお会いしたことありますよね?」
「…」
半歩先を歩く彼に追いつくように、少し身を乗り出し顔を覗き見る。
あれ…?義勇さん、黙ってしまった…
よく夢の中で会う男の人と似ているような……あれは義勇さんではないの…?
「……ないと思う」
「え?」
いつまでも返答のない空気が気まずく他の話題を探していると横からそう声がした。
「君と会ったことはない」
「あぁ」
なんだ、考えてくれていたのか。
「…でも、わたしは義勇さんみたいな人を知っています。優しくて…暖かくて…わたしの大好きな人」
視線を落とし、足元に咲いていた野花は何て名前だろう、なんて考えながら夢に出てくる"その人"を思い浮かべた。
「…そうか」
義勇さんといると、なんだか本当の自分に戻れるような…。
彼の纏う独特な雰囲気のせいか、温かな安心感に包みこまれる気分になる。
いつまでこうしていられるだろうか。
私が知らない世界の私が体験していた、穏やかで幸せな時間。
今はそんな時を過ごしているような気がする。