第16章 暁闇の元
「………わかる…だなんて…おこがましいですが………嫌…ですよね…。私も兄弟子を、ころっ……された時の…夢をみて…覚めた後…。辛くて、どうしようもなくて……んっ!」
どうして今、を抱きしめているのか分からなかった。
話を聞いて可哀想だと、哀れだと思ったからか。
否、大切な人を守れないのは己の弱さ所以だと、誰にでも、自分にも思っている。
…ただ……ただ目の前で、俺の冷えた腕を温めてくれ、この、グズグズと煮詰まった痛哭の思いを掬ってくれたが可愛らしく、守りたいと……思ったからだ。
腕の中の彼女は一瞬驚いたようだったが、落ち着いたようで静かに涙を流している。
「ありがとう、ございます…」
どのくらい経っただろう。
心地よい、静かな時の流れはの小さな声で終わった。
向き直った彼女は僅かに紅潮しており、どこからか屈折した月明かりが艶麗に照らす。
その姿か、または彼女からする独特な良い香りにか、
また惹かれそうになった腕を押し込めた。
「俺の方こそ…ありがとう、…」
"もう戻れ" と、彼女から目を逸らしそう言うのがやっとだった。
*
"ありがとう" と、私を真っすぐに見つめた瞳はすぐに逸らされた。
トクトクと、一度落ち着いたはずの心臓は自分の布団に入ってからまた高鳴りだした。
天井の模様をぼーっと眺めながら、騒がしいところに手をのせる。
この心音は、いつ収まるのだろうか。