第16章 暁闇の元
「姉が……殺された時の夢を…みていた…」
「……鬼…ですか…?」
「ぁぁ…」
冨岡さんは俯いたままポツリ、ポツリと話してくれた。
お姉さんは祝言を挙げる前日に、冨岡さんを庇い目の前で鬼に殺されてしまったと。
「……すまない、こんなつまらんこと…」
「いえ…!」
つまらなくなんか、ない。
稔さんの事が浮かんだ。
鬼から私を庇い、その後……
稔さんは兄弟子だったけれど、私は本当の兄のように慕っていた。
私もいまだに彼が亡くなった時の夢をみる。
恐怖で目が覚めると全身じっとりと汗をかいており、その汗が空気に触れる冷たさが、それが現実であったことを実感させる。
本当に嫌だ。
実のお姉さんを殺されてしまった冨岡さんの悲しみは、悔しさは、きっと私のそれ以上に深いものだと思う。
その悲しい痛みを想像すると、胸が引き裂かれるなんてものじゃない。
冨岡さんに自分の姿を重ねた。
……私たちは、共に孤独なのかもしれない。
*
繋がっている俺の右手をは胸元に寄せ俯いた。
温かい。の体温。
酷い夢だった…
もう何年も前の事なのに、その夢は俺を簡単にあの日に連れ戻すように現実的だった。
稀に見るこの夢。目覚めた時、大量にかいた汗に体を冷やされるのが苦手だった。
姉さんがいない現実を突きつけられるようで…。
だからか、腕から伝わってくるの体温に心が落ち着く。
礼を言おうとしたとき、彼女の寝巻きにパタと水が落ちる音がした。
が泣いていた。
彼女は俺の手を離さず左手で頬を押さえるようにして涙を拭く。
左手を伸ばし、同じように右頬を押さえてやる。
「なぜ泣いている」
片手に収まってしまいそうな彼女の頬はひんやりとしていて
手に吸い付くような…。美しくてそれはいつか食べた白玉のようだった。