第3章 尊い人
それから私たちはある街でおち合い、しばらくの間ともに行動をしていた。
今思い返せば、鬼殺をしながらというものの
あの頃が私にとって一番穏やかで幸せな時だったのかもしれない。
稔さんは私に熱心に稽古をつけてくれた。
鬼殺隊の隊士は、位に応じて十の階級で分けられており、そのさらに上に「柱」という最高位の位がある。
私は下から4番目の「庚(かのえ)」
稔さんは「甲(きのえ)」
十の階級の中で一番高い位だ。
位が高くなるほど、任務に出向く回数も多くなり、多忙となる。しかし彼は、時間を見つけては私に剣術を教えてくれるのだ。
なぜ多忙な中こうも私の面倒をみてくれるのか。
一度聞いてみたことがある。
「前に俺を鬼から救ってくれた人の話をしただろう?煉獄槇寿郎さんという方だ。
当時の炎柱をされていた方だったんだが、俺はあの方にたくさん稽古をつけてもらっていたんだ。あの時学んだことは、実戦で 俺を何度も窮地から救ってくれた。
俺は今でも、あの方に救われてるんだよ。
俺は、に死んでほしくない。だから今こうして稽古をしているんだ。…まぁ、あの方と比べたら、俺はまだまだだがな!」
稔さんがその炎柱のことを、過去形で話していたのが気になった。
話をする彼の表情は、懐かしむような…悲しむような……
……もう、亡くなってしまっているのだろうか……
「…でも、稔さんもあと少しで"柱"ですね!」
私はできるだけ明るい声で言った。
彼は少し微笑んで
「…いや、俺は柱にはならない。なれるような器じゃない。今はその、槇寿郎さんの立派なご子息が炎柱を務めている。あの方によく似ていて、本当に素晴らしい子なんだよ。」
穏やかな声色で、心からそのご子息のことを尊敬しているのが伝わる。
稔さんは昔、槇寿郎さんに招かれて煉獄家へ訪れた際よくご子息たち兄弟と交流をしていたらしい。
稽古がてら打ち合いをしたり、時には山や川に遊びに行ったりと…
私もその光景を想像し、あたたかな気持ちになった。
いつか、稔さんとともに炎柱に会えたらいいな…など、
私はのんきなことを考えていた。