第16章 暁闇の元
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「ん…」
目が覚めたはまだ辺りが暗いことを確認しむくりと起き上がる。
暑い……喉が渇き体が無性に水を欲しがっている。
この、藤の家の世話人は、自分がいないときは台所の飲み水を飲んでくださいと言っていたかと思い出し、そちらに向かう。
すまさそうに水を飲み終え、また部屋に戻ろうと廊下をぺたぺたと歩く。
「ぅ……くっ………」
隠の方に預けたあの少女のことが気がかりで、どうしているだろうか…と寝ぼけた頭で考えていると、
扉の向こうで小さな声がしたのに気づいた。
寝言かと思ったが、何やら苦しそうで心配になる。
それにこの部屋は…冨岡さんにあてがわれた部屋ではないか。
いけないとわかっていても、そっと襖を開け様子を伺った。
「はぁ…はぁ…」
荒い息遣い。身をよじらせて辛そうだ。
「…さん……蔦子…姉さん…」
「……っ!」
気づいた時には、「冨岡さん、冨岡さん」と
中に入り彼の肩に手を置いて声をかけていた。
バッと私のその手を掴んで冨岡さんは目覚めた。
「……すまない…」
私を見とめ彼はそう言うと掴んでいた手を離し、上半身を起こして片手で顔を覆った。辛そうだ。
「ぁ……あの…大丈夫ですか?」
「……」
「…お水…とってきますね」
「ゃ…いい……いいんだ…」
立ち上がろうとした私の左手首をまた掴み、彼は弱弱しく言う。
その姿が痛ましく、その手に自分の手を重ねた。
「……何か…聞いたか?……寝言など…」
しばらくして呼吸が落ち着くと、冨岡さんは口を開いた。
「……蔦子、姉さんと……仰っていました」
"いいえ、何も聞いてません"と言うのが正解だっただろうか。
肉親を鬼に殺された隊員は多い。
というかほとんどがそうだろう。
だから、隊員同士そういった話題は避けるのが定説なのだ。
でも……知りたかった。
冨岡さんがどういう気持ちで剣を振るっているのか。
どんな思いで水柱になるまでの道を、歩んできたのか。