第16章 暁闇の元
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「なんでもありません」
口元を両手で隠しながらそういうは楽しそうだった。
よかった、そう思った。
に頼まれ稽古をつけるようになってから数日が経っていたが、彼女はずっと寂しそうな顔をしていた。
前に街で会った時との印象から大分ずれていたので正直戸惑っていたのだ。
あの子鬼につけられたの頬を傷を見るたびに違和感を感じていた。
お館様や噂で聞いていた彼女の実力では、攻撃を受けるのは考えにくい。
何か…の心を揺らしているものがあるのだろうか…。
…煉獄はなにをしているんだ。
ずっと一緒にいたのであれば彼女の変化に気づいたのではないだろうか。
「…師範は、いつ戻られるでしょうかね」
とっくに手当の終わったの足首の包帯を整えていると、彼女がそう呟いた。
の目にはどこか憂愁の色があった。
緋色の、快活な青年が脳裏に浮かび
腹は空いているのに、何かが煮えてくるようだった。