第16章 暁闇の元
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"ご無沙汰しています"
自分が情けなくて、挨拶の言葉が出てこなかった。
「…精神が乱れている。…何かあったか」
「…」
言えるわけない…こんなこと…。
「…あのっ、稽古を…つけていただけませんか?」
咄嗟に出てきた考えだった。
水の呼吸は冷静なものだから、何か学べることがあるのではと思ったのだ。
…というか、杏寿郎さんのところへ戻りたくなかった…という理由もある。
真反対の性格の流派を学ぶのは破天荒だが、冨岡さんは意外にも快諾してくれた。
千寿郎くんには鴉を飛ばした。
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次の日、
冨岡さんは"手合わせをしよう"とだけ言ってどんどん先へ歩いて行ってしまった。
最初から柱に手合わせをしてもらえるなんて、有難い機会だ。嬉しくて、"はい!"と返事をするがその時にはすでに彼はかなた先に行ってしまっていた。
「ここ…ですか?」
冨岡さんの歩く速さに必死についていくと、竹林の中の開けた場所に辿り着いた。
竹の隙間を風が通るたび、葉や稈(竹の幹の部分)が互いにぶつかり清々しい音がする。
冨岡さんがこちらに振り返る。
冨岡さん以上にこの場所が似合う人がいるのかしら…
なんて悠々と考えていたから、彼と目が合ってしゃんと立ち直す。
「…の適性は炎の呼吸だ。だから水の呼吸を極めようとしなくていい。」
「えっ…」
「手合わせで炎の型を使ってもいい。がやり易いようにやったらいい。」
冨岡さんて無表情で冷たい印象だったから、怖い人って思っていたけれど…そう言われると思ってなかったから少し拍子抜けした。
様々な呼吸の型があるけど、理論はすべて同じということね…
手合わせをしながら一通りの水の型を教えてもらい、なんとなく自分のものにできてきた気がする。
カンッ…カッ!
この角度…この距離……よし、
「水の呼吸…漆ノ型、雫波紋突き!!」
木刀を突き出し、技を出す。
彼に…冨岡さんに刃先が届く……
シュッ…
「うっ…」
わたしの渾身の一撃はかわされてしまい、
反対に冨岡さんの一撃を食らった。
その際、咄嗟に防御の腕が出てしまった。
冨岡さんは打ち合いをやめる。