第15章 ゆくりなくも
「よいっ…しょ」
少し高いところにある物干し竿に布団をかけようとしている千寿郎くん。
私も庭に出て手伝う。
「ぁ、ありがとうございます!」
「ううん、一緒に干しましょう」
「日が強いのでさんは中にいてください」
「大丈夫よ」
一緒に洗濯物を干すって、なんだか家族みたい。
いいな…ここでずっと暮らしていたいな…。
………杏寿郎さんはどんな人と結婚するのだろう。
もういい年頃だし、そういう話があってもおかしくないと思うけど…。
…もし、私が煉獄家に入ることになったら……
はと我に返り、頭を振る。
蝶屋敷でのことがあっても、やはりこんなことを考えてしまう。
意識しているのか、むしろ以前より杏寿郎さんのことを考える時間は増えたかもしれない。
たとえ彼が私に向ける優しさがお館様からの命だとしても、
やっぱり私は杏寿郎さんの側にいたいのだ。
「杏寿郎さんのところには、縁談がたくさん来るでしょうね…」
「縁談…ですか?」
考えていたことが思わず口から出てしまった。
継子の私が師範の結婚相手を気にするなんて厚かましく見えるだろうか。
…でも聞いてしまおう。折角の機会だ。
そっと千寿郎くんの顔を覗き見る。
「兄上はさんと…あっ、」
「私と?」
「…いえ!縁談のお話は多くいただきますね。でも、兄上にはまだそういう気はないようで、毎回お断りに心を砕いてます…。」
「そう…なのね。杏寿郎さん、素敵だものね。」
…多く、か。
心の中で、何かの感情が動く音がした。
独占欲…かしら…。
*
ちらと、さんが屈んだタイミングで彼女を見る。
てっきり兄上とさんは両想いかと思っていたから
彼女からこんな話が出て動揺してしまった。
稽古の時だけを見ているとわからないが、普段過ごしている時の二人の雰囲気から、どこかお互いに師弟を超えた感情があるように思えてならなかった。
ある時、兄上がさんを見つめる視線に気づいた時から
俺は二人がうまくいくことを応援してたのに…。
「よし、完璧」
洗濯物を干し終わったさんの声で我に返った。
と同時に、彼女の鎹鴉が飛んできた。