第15章 ゆくりなくも
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数日後、しのぶちゃんから処方された薬でほぼ全快し、煉獄家へ戻った。
「おはよう千寿郎くん」
「さん、おはようございます。」
「今日は…杏寿郎さんは?姿が見えないようだけど…」
朝食の席に着くのは二人だけで杏寿郎さんの姿もなければ器の準備もなかった。
「…あれ?聞いてないですか?兄上は今日からひと月ほどの任務に出られました。」
「ひと月も?遠い場所なのかしら…」
柱が長期の任務に出るのは稀だ。
その間は担当地区から離れなければならいため、相当重要な任務となる。
私に何も言わずに行ってしまうなんて…。
継子であることに自信を失ってしまう。
あの後、蝶屋敷を発ってから
もっと剣士としての腕を磨いて、柱に、杏寿郎さんに近づきたいと思い、一緒に任務へ向かう時間を増やせないか彼に打診したところだったのに…。
「…っ、詳しいことは俺も聞いていないんです。ここのところ兄上は多忙で、さんともお会いできていませんでしたしね。」
箸が止まっていた私を気遣ってか、千寿郎くんが付け足した。
私は"そうね"としか言えなかった。
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それから一週間程、私は千寿郎くんと平和な日々を過ごした。
…いい天気だ。
雲一つない快晴の朝。
千寿郎くんが洗濯物を干すのを、縁側で豆のさやを剝きながら眺めている。
怖ろしいことはこれから昼にかけて気温が上がっていくことのみだった。