第15章 ゆくりなくも
*
――――"必勝"―――
この桜の木の名前だ。
何があっても勝つ。
鬼に…鬼舞辻無惨を倒すために、鬼殺隊の全員が命を投げ打っている。
……だから…個人的な気持ちを鬼殺の世界に持ち込んではいけないのだ。
…………杏寿郎さん…
……考えないようにしてるのに…
走馬灯のように彼と二人の思い出が脳内をめぐる。
止められなかった。
「ん…」
ほろ…と、涙が一滴 頬を伝った。
人の足音が近づいてくる。
この気配は杏寿郎さんだ。
「…」
私は彼に見えないように涙を拭い、振り向いた。
「おはよ…」
「おはよう、よく眠れたか?」
「うん…杏寿郎さんのおかげ」
……嘘。本当は全然眠れなかった。
「この桜の木、"必勝"って名前だって…初代花柱がそう名付けたと、前にしのぶちゃんに教えてもらったわ」
そう言って青葉を見上げたら、また涙が溢れてきた。
咄嗟に彼から顔を逸らして俯いた。
「、どうした…?」
「ううん…ちょっと…頭が痛くって…」
「無理はするな。部屋に戻って休もう」
ふわっと
彼は自分の羽織をかけてくれる。
杏寿郎さんの…私の、大好きな匂い…
「……っ…。えぇ…ごめんね、そうするわ…」
もう…優しくしないで…
…辛くなるから……
「…杏寿郎さん」
「む?」
「心配かけてごめんね、蝶屋敷に連れてきてくれてありがとう。」
「……何かあったのか?」
鋭い…
なかなか彼の目を見られなかったから不審に思われただろうか。
杏寿郎さんが近づいてきた。
「…っ」
反射的に後ろに下がってしまった。
「ううん、何も…」
…………心の中にこれ以上入ってこないで……
顔を上げ彼を見ると、悲しそうな顔をしていた。
あぁ……そんな顔…してほしくないのに……
眠くなったふりをして目を擦り、溢れた涙をぬぐう。
「…もう少し、眠ろうかな」
「……あぁ、その方がいい」
大丈夫、大丈夫。
まだ、戻れるところにいる…。
…彼の……ただの継子に…