第15章 ゆくりなくも
あの時……
杏寿郎さんが私のことを大事な人と言ってくれた時……抱きしめてくれた時………私…嬉しかったのに…
彼が私に向けるまなざしには意味があったと…そう、思いたいのに…
………何を思い上がっていたんだろう。
そのあとの会話はもう耳に入ってこず、
走って病室のベッドまで戻った。
「ん?」
「どうしました?煉獄さん。」
「いや…いま廊下で物音が…」
「そうですか?」
立ち上がりドアを開け、廊下を確認するが誰もいなかった。
「…」
「気のせいですよ」
「うむ…お館様、胡蝶、俺はそろそろ失礼します。」
「うん、今夜は話ができて良かったよ。杏寿郎。」
「また明日、おやすみなさい。」
頭を下げ退席した杏寿郎はが眠る部屋へと向かう。
そっとドアを開け中に入り彼女の寝顔を確認する。
布団でほとんど見えないが眠っているようだ。
…………布団が乱れている。
一度起きたのかもしれない…。
……よもや…さっきの話……
――――――――――
その日は、の隣室に泊めさせてもらい
翌朝もう一度彼女の病室を訪ねた。
ノックしても返事がないので、まだ寝ているのかと思いドアを軽く開けた。
しかしベッドは空になっていた。
彼女はどこにいるのかとあわてて探す。
食堂、胡蝶の部屋、道場…
屋敷の中は大方探したがはいない。
…まさか、外へ……?
免疫が落ちている今、日の下に出るのは彼女にとって良くないはずだ…
そう思ったが、それ以外にもう見当がつかない。
庭への扉に手をかけた。
朝の陽光が目に染みる。
「…」
庭に植えてある大きな桜の木の陰から、茂る葉を見上げるがいた。