第15章 ゆくりなくも
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目が覚めた。
真っ暗な部屋の中に…うっすらと薬剤の匂い…。
……そうか、私は杏寿郎さんと蝶屋敷に…
部屋の記憶はないから私はきっと彼の腕の中で眠ってしまって…
「~~っ」
誰もいないのに両手で顔を覆う。
意識を手放す前の記憶がありありと蘇ってくる。
ひとまず落ち着こうと枕元の照明をつける。
腕に違和感を感じ視線をやると、そこには注射の痕があった。
…しのぶちゃんが治療をしてくれたのだろうか…。
おかげでずいぶん体調が良くなったようだ。
……杏寿郎さん…なんて、真っ直ぐで誠実なんだろう
この人と…ずっと一緒にいられたら……
…杏寿郎さんはどこだろう。
部屋にひとりでいるのが寂しくて、彼と少しも離れたくなくてベッドから起き上がり杏寿郎さんを探す。
部屋をそっと出て屋敷の中を歩き回る。
しかし珍しいことに誰ともすれ違わなかった。
今は何時だろう。
夜中だとしても、誰かしらの気配はあると思うのに…
とうとう一番奥のしのぶちゃんの部屋まで来てしまった。
ドアが少しだけ開いていて、光が漏れている。
人がいるようで中からは話し声が聞こえる。
きっとしのぶちゃんだ。
私はこの部屋にまだ入ったことがない。
しのぶちゃんの事だから、素敵なお部屋なんだろうな、いつかお邪魔してみたいなとずっと思っていたので、良い機会だし声をかけてみようと、ドアに近づいた。
……しのぶちゃんに…杏寿郎さんもいる……
…それに……お館様…?
「…まぁ、さん美人ですし。てっきりおふたりはそういう仲なのかと思っていましたよ。」
ノブに手をかけたその時、思いがけず自分の話題が出たからあわてて手を離す。
"おふたり"…って……
…彼は、杏寿郎さんはなんて答えるのだろう…
「それはないな!彼女は大切な継子だ。」
…………杏寿郎、さん…
彼の明快な言葉が、これほど胸に刺さったことはない。