第15章 ゆくりなくも
「…私…杏寿郎さんにこうしてもらうの、好きなの…。
温かくて…幸せで…安心してしまうわ…。」
は杏寿郎を見上げる。
杏寿郎が驚いた顔をしているから、
はまた言った後に恥ずかしくなってしまった。
「…ぁっ…あの、杏寿郎さん…さっき、私のこと…大事な人って…」
どうにか緊張の漂う空気を軽くしたいと思ったは何を思ったのかそんなことを言ってしまった。
彼が冗談を返してきてくれるかと期待したのだが
「あぁ、言った!君は俺の大事な人だ。」
真正面から返してきた。
もうどうしたら良いかわからず、
赤面したは胸の上に置いていた帽子で返事もせず顔を隠す。
「こら、隠れるんじゃない」
「きゃぁ」
揶揄ってやりたくなり帽子を少しずらしたら、
の照れた可愛い顔が現れた。
「えっ杏寿郎さん?」
それまで走っていた杏寿郎が急に止まったので、は驚いた。
「…あの…杏寿郎さん……?」
固まった杏寿郎からは返事がない。
は彼に何が起こったのかわからず見つめるが、じっと見つめてくる彼への視線のやり場に困り こてんと頭を彼の腕にもたせた。
「………む」
「………」
「か……」
「か?」
「「可愛い!!!!!」」
「~~~っ」
杏寿郎がすごく大きな声で叫ぶのでは耳をふさいだ。
「………ふふふっ」
「ははっ」
困ったように、しかしいたずらっ子のように笑う。
といると、楽しい。笑うことが多い気がする。
をこれからもずっと大切にしたい…
俺は腕の中に、宝物を抱いているような気持ちになった。
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蝶屋敷に着いて安心したからか、は眠ってしまった。
「………好きだ………」
…本当は、起きているんじゃないか。
そんな期待をした俺は、臆病者だろうか…