第15章 ゆくりなくも
*
「……杏寿郎さん…」
もっと、早く戻るべきだったと後悔した。
振り向くと火照って涙目のが俺を見上げていた。
「……っ」
そんな顔…他の輩に見せたくないな…
俺は…今にも涙が溢れ出てしまいそうな彼女を
優しく抱きしめた。
「奴の言うとおりだ…。、怖い思いをさせてすまない。」
「ん…ううん…。私こそ、勝手に動いてしまってごめんなさい…。」
「体調、治ってないのだろう?熱もあるみたいだ…。」
「うん…ごめんね……ちょっと…辛いかも…」
「胡蝶のところに行こう。ここから近かったはずだ。」
そう言い俺はの体を持ち上げ横抱きに抱えた。
「きゃっ」
彼女は吃驚したようで俺にしがみつく。
安心させるよう目を合わせ微笑んだ。
「私…、いつも杏寿郎さんに抱えられてますね。」
「なに、君はこうして抱えられていればいいんだ。」
「もうっ、子供扱いしないでくださいっ、私だって、杏寿郎さんくらい抱えられるのよ?……まぁ、杏寿郎さんはこんなへましないでしょうけど。」
「それでは、今度試してみようか。本当に俺を抱えられるのか。」
とりとめのない会話が可笑しくて、ふたりは笑い合う。