第3章 尊い人
稔さんを鬼から救ってくれたのは、
毛先のみ赤く染まる琥珀色の頭髪をもち、炎の柄の羽織を着た隊士であった。
彼は「炎柱」と名乗ったそうだ。
それから稔さんは鬼殺隊に引き取られ、のちに剣士となることを目指したのだ。
その「炎柱」、煉獄槇寿郎とはその後も交流が続き、たまに稽古をつけてもらっていたそうだ。
「…だから、俺は炎の呼吸を使い、また誰かが、俺がしたようなつらい思いをしなくて済むように鬼を駆っているんだ…」
は言葉が出なかった。
代わりに涙がでてくる。
なぜ、善良な人が理不尽に悲痛な思いをしなくてはならないのか。当の鬼は今ものうのうと生き、どこかで人を食っている。腸が煮えくり返りそうだ。
「あの…私も、稔さんのように鬼の首を斬れるようになれますか…?」
は稔をまっすぐに見て訊いた。
その瞳には、芯の強さが宿っていた。
「さっき、私が鬼に襲われていた時、正直もうだめかと思いました。稔さんがいらっしゃらなかったら、きっと今 このうどんも食べられてないです。
"自分がしてもらったことを誰かにする"
"強く生まれた者は、弱い者を守る"
…この力…どうせなら人を守るために使いたい。」
稔は少し迷った。 が、が本気で言っているのは理解できた。
「君が本心でそう思っているのなら、"育手"を紹介してあげよう。その育手の下で鍛錬をし、鬼殺隊の入隊試験である"最終選別"を突破できたら、君は晴れて隊士になれる。」
は稔の纏う空気が固くなるのを感じ、思わず姿勢を正した。
(迷わないわ…私は人を、守りたい…!)
体を突き動かす衝動。
まるで自分は、鬼殺隊の隊士になるためにここまでの運命をたどっていたのかと思うくらい、その意思は必然のことのように感じられた。
「わかりました。稔さん、私にその育手を紹介してください!」