第3章 尊い人
先ほどまで私たちがいた場所からうどん屋は本当にすぐそこだった。
人間の生活圏に、当たり前のように「鬼」がいることに、私はぞっとした。
うどん屋ではお互いに色々な話をした。
私たちはすぐに打ち解け、私も記憶を失っていて、なぜか神社で倒れていたことを話した。
稔さん、という青年は、私の質問になんでも丁寧に答えてくれた。
この世には「鬼」という人間を主食とする怪物が存在すること…
その「鬼」を滅し、人間を守っている政府非公認組織、「鬼殺隊」があり、稔さんはその一員であること…
「鬼殺隊…」
私はその組織について興味をもった。
だが、命を懸けて他者を守り鬼を駆る、そんな自己犠牲を厭わない行為。
「…稔さんは……鬼に立ち向かうのは、怖くはないのですか?」
思わず聞いてしまった。
しかし、稔さんはふわぁとした笑顔をみせ、
「怖くはないさ。自分がしてもらったことを他人にする。
強さを持つ者は、弱い者を守る。……当然のことだよ。」
少しだけ、稔さんは悲しい目をしていた。
私が言葉の続きを期待したのを感じ取ってくれたのか、稔さんはポツリ、ポツリと自身の過去について話してくれた。
稔さんは昔、郊外の洋風の一軒家に家族で住んでいたらしい。
家族仲はとてもよく、近所からも評判の一家だった。
しかし今から7年前、稔さんが12歳の時、両親と二人の妹は
鬼によって殺されたのだ。
ある晩、窓を開けて 書斎で仕事をしていた父親のところに鬼が入ってきたらしい。
そこで、まず父親が。
次に鬼はリビングへ行き、妹たちに本を読んであげていた母親。続けて妹たち。
騒ぎに気が付いて二階から降りてきた稔さんが目にしたものは、大好きな家族の…惨状…
妹の腕を貪っていた鬼は、稔さんに気が付いて振り向いた
「なんだぁ?まだいたのかよ…」
そう言い、稔さんに襲い掛かろうとした刹那、一人の剣士が窓ガラスを突き破って飛び込んできたかと思ったら、すでに鬼は死んでいた。
その剣士が鬼の首を斬ったのだ。