第15章 ゆくりなくも
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ちらと、杏寿郎さんの腰元に目をやる。
そこにはあの猫の根付がついていた。
贈ったものを使ってくれていると、とても嬉しい気持ちになる。ぽんと心が跳ねた。
いや、今日は化粧をしている時からずっと、心が跳ねていた。
それは久しぶりに外に出るからか、
それとも杏寿郎さんと一緒だからか…
煌びやかなものが並ぶお店をみていると、心が浮き立つ。
たぶんそれは、隣に杏寿郎さんがいてくれることも相まってるのだけれど…。なんだかさっきから、私だけはしゃいでいるみたいで恥ずかしくなってきた。
振り返り、後ろの杏寿郎さんは楽しんでいるのか心配でそっと彼の顔を見上げたら、目があってしまった。
杏寿郎さんは少しだけ笑顔を私にくれたが、またすぐに向こうを向いてしまった。
「…ねぇ、杏寿郎さん」
「ん…」
「杏寿郎さん、なんだか今日はぼおっとしてるわ。何か…あった?」
目の前に並ぶ色とりどりの浴衣。
それらをなぞりながら訊ねる。
「む…そうか?いつも通りだが…」
また歯切れが悪い。
「私…なんでも思ったことを率直に言う杏寿郎さんが好きよ。」
「……っ!君は……では、率直でいるとしよう。これからもに好いていてもらいたいからな。」
「えぇ?」
思わず吹き出してしまった。
おもしろい冗談だわ、と。
浴衣に再び目を落とした杏寿郎さん。
「何色がいい?」
「赤」
「即答だな」
彼は笑う。
「赤が一番好きなの」
「どうして?」
「赤いものを見ると、力が湧いてくるような気がして…。情熱的で力強い……杏寿郎さんみたい。」
「……それは…どういう意味かな?」
「あっ…」
なんだか恥ずかしいことを言ってしまったようで、顔が熱くなる。
「…」
「そ、そのままの意味ですよっ」
きっと私の顔は赤くなっているだろう。
杏寿郎さんとは反対の浴衣をみる。
「金魚…」
白地に赤い金魚模様の浴衣が目を惹いた。
「白地の浴衣か…に似合いそうだな。」
杏寿郎さんが顔を覗き込んでくる。
揶揄われているようなので、こちらも見つめ返す。
じっと…見つめ合う。
一瞬…にしては長かったような時が流れ、
ぱとお互い視線を外し、同時に咳ばらいをしたから
また一緒に笑ってしまった。