第15章 ゆくりなくも
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「君さえ良ければ」
…今の声、不自然ではなかっただろうか。
ここは市街地からも離れていて、人通りもあまりない。
隣を歩くの洋服の袖から伸びる白い腕。
手を…繋ぎたいと思った。
差し出した腕に彼女は少し驚いたようだったが、頷き了解してくれた。
繋いだ瞬間、心が跳ねた。
口角が上がっていることに気がつき急いで直す。
の方を見るが、彼女は俯いていて様子がわからなかった。
女子と外で手を繋ぐなどはじめてのことで、正直動揺している。
相手がだからだろうか…
―――
――
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そのまま会話をしながら歩いていると、辺りに人が増えてきたことに気がつく。
もう市街地に入っていたようだ。
あっという間だった。
それにしても、いつもより周囲からの視線を感じるような…。
俺は派手な髪色をしているから注目をされるのには慣れているが、今回はみな俺ではなく隣のを見ているのだ。
それもそうだ、今日のはいつにも増して魅力的だからな!
「…っ!杏寿郎さん?」
「すまんっ!」
そんなことを考えていたら、繋いでいた手に力を入れてしまった。
は痛かったようで慌てて手を離す。
「て、手に汗をかいてしまった!すまない!」
"君のことを考えていた"
など言える筈もなく、咄嗟に嘘をついてしまった。
…手を離してしまった
繋ぎなおす時機を見計らっていると、
「それなら…これは…だめですか?」
はそう言い、腕を絡めてきた。
「なっ」
「!ごめ…」
"ごめんなさい"と彼女が言い終わる前に、その腕が離れていくのを阻止した。
これは…手を繋ぐよりも密着するな…。
互いに緊張しているのか、どちらも言葉を発さないまま歩みを進める。
ふわりと、の香りが鼻を掠めた。
今日はその香りの中に化粧の香りが混じっている。
白粉の香りは苦手だが、この香りは特別だ。
むしろもっとかぎたいと思ってしまう。