第15章 ゆくりなくも
―――
「車を呼ぼうか?」
「ううん、せっかくだから杏寿郎さんと歩きたいわ」
神社を後にし、市街地へ向かう。
市街地へは少し距離があったけれど、車ではなく杏寿郎さんと歩きたいと思った。
こんなゆったりとした時間はそう多くはない。
少しでも二人だけの時間を過ごしたい…なんて、
思ってしまうのは私のエゴイズムだろうか。
先日の怪我の件で、命というものを強く意識した。
鬼殺をしているのに今まで自分の命が終わる時のことなど考えずにいたことにも気がつき、呆れた。
もし、今すぐ私の命が終わってしまうなら
きっと残念に思うだろう。
その時真っ先に浮かぶのは杏寿郎さんで、もっと美しい思い出を作りたかったと…。
欠けた記憶のことは考えても仕方がない。
それなら、楽しい思い出で補完したらいいの。
そう考えられるようになったのは多分杏寿郎さんのおかげだ。
杏寿郎さん…私を照らしてくれる太陽みたい…。
「…」
目の前に杏寿郎さんの手。
「君さえよければ」
「ん…あり、がとう」
頷き、差し出された手を取る。
少しだけ熱っぽくなってきていた。
フラついたの、ばれてしまっただろうか…。
それで杏寿郎さんは手を繋いでくれたんじゃないかと思う。
…嬉しい
トクトクと鼓動が早くなり、彼の方に顔を向けられない。
帽子があってよかったと つばをなぞり私は俯いた。