第15章 ゆくりなくも
*
遠ざかっていく杏寿郎さんのうしろ姿を見送り、
私はひとり、また拝殿に向き直った。
そっと手を合わせ、再び目を瞑りお祈りをする。
―――これからも、煉獄家をお見守りください…
ふと誰かが隣に来た気配を感じた。
ゆっくりと目を開け、会釈をしてから去ろうと思いその人の方へ少し顔を向ける。
するとその人もこちらを向いた。
女性だった。
私は思わず息を飲んだ。
そこにもうひとりの自分がいると思ったから。
「ぁ…」
お互い目が合ったまま少しの沈黙。
いや、一瞬だったかもしれない。
私とよく似た雰囲気をもつその人は微笑んだ。
と同時に、
「!」
と、杏寿郎さんに名前を呼ばれ、我に返った私は彼の方に振り向き、女性に会釈をしようともう一度そちらに振り返ったのだが、その人はもういなかった。
(会釈くらいするべきだったわよね…)
失礼だったかと、なんだか悪いことをしたようで気まずい。
「これを君に見せたかったんだ。」
杏寿郎さんは小さな写真立てを持って戻ってきた。
「家にも同じ写真があるが、父上がどこかに仕舞ってしまってな…。」
「わぁ、杏寿郎さん?こんなに小さい。千寿郎くんも…。二人ともとっても可愛いわぁ」
その写真は何かの行事の時の家族写真のようで、
小さな杏寿郎さんと千寿郎くんがいた。
千寿郎くんを抱く女性に視線を移す。
「ぇ…この人、今…ここで…」
写真の中で凛と立つ女性。
その人はたった今私の隣にいた人だ。
「母上だ、どうかしたか?」
「ううん、なんでもない」
少しの動揺。
先程、彼女がいた場所を振り返る。
不思議な体験…だった…
あの人は、誰なのだろう…。