第14章 琴線に触れる
「…鍛錬をされたのですか?」
先に口を開いたのはだった。
「あぁ、君も知っているいつもの俺の鍛錬だ。早く一緒にできるといいな。」
また変わらぬ日常を送れるということが、どれほど尊いことか思い知った。
流麗に微笑み、えぇ と返事をしたの顔が少し赤らんで見えたのはきっとこの部屋が暑いからだ。
「………暑くなってきたな、少し戸を開けよう。」
いつもより口数の少ない。
病み上がりだから仕方ないのだが、今朝のことを覚えているのかいないのか、彼女の様子からは全く分からないため
杏寿郎はそわそわと落ち着かなくなってしまう。
「…!む…俺にもその、もう一度抱擁してくれないだろうか?」
戸を開けるため立ち上がり、部屋の半分まで歩いた杏寿郎が突然叫ぶ。
「え?」
「や、やましい意味ではない!純粋に、大切な君が目の前にいることを…か…感謝したいんだ…」
珍しく歯切れの悪い杏寿郎。
(ちょっと…なんか、恥ずかしい…)
でも、そういうことか…と、
の心の中に膨らんでいた何かがしぼんでいく。
それがしぼんで初めて、自分が"期待"をしていたことに気がついたは、顔が熱くなるのを感じ両手で顔を隠すように頬に手を当てる。
「……やはりこの部屋は暑いな」
に再び背を向け戸を開けに行く杏寿郎。
「あぁ、君の怪我が早く治るようにと、千寿郎と参拝に行ってきたんだ。」
杏寿郎はそう言いながら
の枕元に置いておいたお守りを拾い上げ手渡す。
「私に…?ありがとう…!嬉しいわ」
白い小さなお守りを両手に持ち、すずらんのように笑う。
それはまるで少女で、見ているこちらが癒されるなと微笑む杏寿郎の視線に、が気付くことはなかった。