第14章 琴線に触れる
杏寿郎さんは、なんて優しい人なんだろう。
私の心情をわかってくれたうえで、今私が一番欲しい言葉をくれる。
…本当に…立派で…素敵な人だわ…
杏寿郎さんの香りって、なんだか…
まるで麻薬のように私の脳を刺激する。
心地よくて…ずっと、嗅いでいたくなるような…
また、頭がぼーっとしてきた。
「…千寿郎を呼んでこよう。」
匂いが離れる。
いやだ…
「…行かないで……」
このまま…。
離れかけた匂いの位置が止まる。
「…!……わかった、もう少し…側にいよう…。君は、もう少し眠りなさい。」
今…私、行かないでほしいって、声に出てた…?
……もう、いいや…
「ぅん……もう少しだけ…」
思ってること、
「…そばに、いてほしいの…」
止めないで言ってしまえ…。
…自制心が弱っているのは
きっと、杏寿郎さんのこの香りのせいだから…。
「……ぁ、あぁ、わかった…。俺はどこにもいかないから、安心して眠るといい…。」
杏寿郎さんは私の体を優しく布団の上に横たわらせ、
また、手をつないでくれた。
暖かい、大きな手。
その手を顔の横に持っていき、杏寿郎さんの顔を見た。
すごく、優しい顔をしていたから
私もはにかみ視線を外し、そのまま目を瞑った。
……この一部始終を廊下で聞いていた千寿郎は、
なにか見てはいけないものを見てしまった気がしてならなかった。
朝から杏寿郎の大きな声が聞こえて起きてしまい、
洗面に行く途中、兄とが話しているのに気がついたのだが、会話に入ってはいけない気がして控えていた。
なぜかひとりで恥ずかしくなってしまっていた千寿朗だった。