第14章 琴線に触れる
(視点)
先日の怪我から、私はずっと眠っていたのだろうか。
目が覚めてすぐそばに杏寿郎さんがいたことに驚いた。
…ずっと、側にいてくれたのだろうか……
…っでも、ということは私の寝顔も見られていたということで…
嬉しいような、恥ずかしいような…
そんなことを杏寿郎さんの顔を見てからの一瞬で考えた後、
あの鬼との対戦が鮮明に思い出され、彼に千寿郎くんの今の状態を訊ねた。
目覚めるまで何かすごく現実的な夢を見ていた気がするけれど、不思議なことに全く思い出せない。
取るに足らないことだろうと思い、気に留めないことにした。
「…君は、いつも自分の事より他人の事を心配するんだな。」
そう言う杏寿郎さんはふと微笑んだ。
「千寿郎は無事だ。が助けてくれたのだろう?」
ふぅと、全身から力が抜けるように安心した。
「…よかった……」
よかった。千寿郎くんが無事で、本当によかった。
でも、今回は自分が判断を間違えなければ防げたことなのではないかと思ってしまう。
用心して日輪刀を持って行っていれば…
明るいうちに、安全な道を通って帰ることができていれば…
千寿郎くんをあんな危険な目に合わせずに済んだかもしれない…と…。
申し訳ない…。千寿郎くんに…杏寿郎さんに…。
……杏寿郎さんは…私に失望するだろうか…
不安で、不安で…
「して、君は自分が眠っている間、どれだけ俺たちが心配したか知らないだろう?君はあの鬼の毒を受けて……っ?!」
ぽろぽろと、目から涙が落ちる。
杏寿郎さんがおろおろとしている。
違うのに、杏寿郎さんの前で泣きたくなんかないのに止まらない。
ただ、こんな優しい人を心配させたくないし、失望してほしくなくて…不安で…。
ペチ
「んぅ?」
杏寿郎さんの大きな瞳が目の前にある。
私の両頬は彼の両手に包まれていた。
「な、にゃにを…」
「ありがとう!俺は君が目覚めてくれて…君と千寿郎が生きて帰ってきてくれて本当に嬉しい。…日輪刀なしで鬼から逃れられるなんて、君にしかできない…。ありがとう。千寿郎を守ってくれて…。」
ふわ…と、お日様のにおい…。
私は杏寿郎さんに抱きとめられていた。