第14章 琴線に触れる
「…?」
「……ぅ…」
彼女は目覚めてなかった。
うなされていたのだ。
かわいそうに…
そっと額に手を当てると、熱かった。
夜になるとこうして熱が上がるのだ。
千寿郎が置いておいてくれた手ぬぐいを桶の中の水で濡らし、の額にのせる。
そのまま頭を撫でてやると彼女の表情が少し和らいだ。
気持ちが良いのか、しばらくそうする。
の頬の一部は火傷で爛れていた。
今は回復して薄い桃色になっている。
そこを、指で優しくなぞる。
その痕が可哀想で、愛おしくて、
俺は無意識に唇を近づけていた。
今なら…、父上も千寿郎も寝ている今なら……。
ごくりと喉が鳴った。
…そっと、その桃色に口づけた。
そこはひんやりと冷たかったが、しっとりと俺の唇に吸い付くような、果実のように潤ったものだった。
自分の心臓が トクン…トクン と跳ねている。
その鼓動を自覚して、俺は…
たぶん、俺は……
彼女に惹かれている。
……ふっ と、
不謹慎だが自嘲の笑みがこぼれた。
鬼殺隊のためにから情報を得ようと利用しているようなものなのに、
そんな俺をどうして彼女が好いてくれることなどあるのだろうかと…
思ったからだ。
己の自己中心的な考えに呆れた。
……叶うべき思いでないのならば
せめて…今だけは……
俺は横になり、の手をとった。
そしてまたその甲に口づけをする。
握ったまま、このまま、少し眠らせてくれ…。
あぁ…。この感じ、とても懐かしい感じがする。
安心感…とでもいうのだろうか
俺がまだ今の千寿郎よりも幼かったころ、
こっそり部屋に忍び込んでは、寝ている母の隣で横になっていた。
あれは今のように、
短くもとても幸せな時間だったと思う。