第14章 琴線に触れる
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(杏寿郎side)
橘殿は、次の日も来てくれた。
の傷は順調に回復しているらしく、
すでに塞がっていた。
さすが…白羅族、と言うべきか…。
飲み薬を適宜服用させるように と残し、橘殿は帰られた。
…あの時、倒れているを見つけた時は色を失った。
大切にしたいと決めた人を守り切れず、
まるで自分の手から零れ落ちていくような喪失感が身を包んだ。
怖かった。
千寿郎がいてくれて、良かったと思った。
あの時千寿郎がいなければ、きっと俺は取り乱していたと思う。
感情を抑えて冷静になるなど、できない。
彼女には…。
「…兄上?」
「む、どうした千寿郎。」
千寿郎に話しかけられていたのに気がつかなかった。
「さん…今日、目覚められますでしょうか…」
「それは…わからないな。昨日、橘殿は"順調に回復している"と仰っていたが、自身がまだ眠っていたいと思えば、起きないだろう。体がそれを望んでいるんだ。俺たちに会いたいと思えば起きるだろうがな!」
あの日からずっと落ち込んでいる千寿郎を励ますように明るく言ったのだが、千寿朗は握りしめたお守りを見つめたままだ。
「…のために、そのお守りも受けたのだろう?
ならば信じよう、彼女はきっと大丈夫だ。」
「…はい…!」
今は、神社からの帰り道。
そこは子どもの頃、よく家族で訪れていた。
その時は母上もいらっしゃって、皆で写真を撮ってもらったりもした思い出のある神社だった。
…しかし、今回訪れたのは母上が病に伏していた時ぶりで、実に数年ぶりになる。
「…そのお守り、の枕元に置いておこうな」
お守りを大事そうに持つ千寿郎に、もう一度声をかけた。