第14章 琴線に触れる
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「おっ、うまそうだな」
「おとうさま!」
おにぎりを持ってぼーっとしていたら
頭の上から父の声が降ってきた。
"食べ終わったら組手をしなさい"
と、わたしと兄に言い、先に庭へ行ってしまった。
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「はっ!…くっ…」
倫也兄さまの動きを目で追いながら、
拳を入れられないかと隙を伺う。
「……。」
…今だわっ
わたしは崩れるように両手を地面につき、
倒立の状態で低い蹴りを入れた。
「くっ…」
兄の膝を掠っただけで、避けられてしまった。
でも、そのまま低姿勢を保ったまま
続けて連撃を繰り出す。
ザシュッ…
足首を狙った最後の蹴りで、兄の体制を崩すことができた。
(よしっ…これで最後…っ!)
崩れた兄にとどめを刺そうと、もう一度地面に手をつき空中で脚を回す…が、
「きゃっ」
兄めがけて振り出した足首を掴まれてしまった。
「…ふっ、惜しかったな!」
にかっと、勝ち誇ったように歯を見せて笑う兄。
「もーーーっ!いっつもこう!どうして?」
悔しくて泣きそう。
いつも兄には勝てない。
「いや、今のは良かったぞ。」
「ほんとう?」
「あぁ、ただ、肘の角度をもう少しつけた方が体勢を戻す時に速さがでる。」
あぁ、そうか、と
父の言葉はすっと腹に落ちてくる。
こうやって、兄との組手が終わった後はいつも助言をしてくれるのだけど、
それは本当にわたしたちのことをよく見てくれているんだなと感じられる言葉ばかりだった。
「…もう一回、お兄さま、もう一回やりましょう?」
兄は優しい。
五歳も年が離れているからだろうか、わたしがどんなわがままを言っても、たいていは聞いてくれる。
そんな兄が大好きだったし、尊敬していた。
「ねぇ、お兄さま」
「どうした?」
互いに技を出し合いながら、合間合間に声をかける。
「そういえばお兄さまって、少し冨岡さんに似ているわよね。」
「なんだよ突然、冨岡さんって誰のことだ?」
「え?あの冨岡さんよ、水柱の…」
……あれ…?
冨岡さんって……