第14章 琴線に触れる
「こんなところで会えるなんて…。うれしいよ。
これ、君に。」
そう微笑みしゃがんで と目線を合わせた童磨は、一輪の菊の花を差し出した。
「…き、れい…」
よく見るとそれは氷で作られたものだった。
今は暖かい季節なのにどうやって持ってきたんだろうと不思議に思っていると、童磨はわたしの手を取り口元に近づけ、すん と匂いをかいだ。
「う~ん…すごくいいにおいだ。君、名前はなんていうのかな。」
「…っ、…」
「そう、かぁ…ねぇ」
「きゃぁぁぁぁ!」
女の子の悲鳴が、童磨がなにか言おうとした声を遮った。
今まで眠っていた子が目を覚ましたのだ。
でも、その子が再び声を上げることはなかった。
「おれは今と話しているんだよ」
静かにしていてよ、という童磨の声と同時に、背後で肉の切れる音がした。
怖くて振り向けなかった。
「ば…ばけもの…」
今度はわたしより先に目覚めていた子がそう言った。
その子がいる方、左側にゆっくり顔を向けると…
その子と目が合った。
ひゅん、と、冷たい風が心臓を刺したようだった。
"ばけもの"とは、わたしの…ことだろうか…。
「し~!だめだってば、声を出しちゃぁ」
「やっ…!」
童磨はわたしが声を発するより早く、
女の子をなにか…蔦のようなものできざみ、殺してしまった。
かわい、そうに…
「…よし、と。きみはさ、ちゃん……あ~…ざんねん。」
童磨は何かに気がついたようで、話すのをやめて立ち上がった。
「おれは面倒ごとは苦手なんだ。また会おうね、ちゃん。必ず。」
そう言い残すと、童磨は瞬く間に姿を消した。
と、ほとんど同時に、おとうさまとおかあさまが入ってきた。
「!!!」
握っていた菊の花はもう、溶けてしまっていた。