第14章 琴線に触れる
(杏寿郎視点)
腕の中の、信じられないくらい熱い。
血鬼術の気配はないので恐らく毒を受けてしまったのだろう。
何が起こったのか両腕は血まみれの上、背中の傷からはまだ出血している。
白い襦袢がほとんど真っ赤に染まっていた。
走る勢いのまま飛び込むように家に入る。
苦しいだろうが、背中の傷に障らぬようをうつ伏せに寝かし、千寿郎にいっぱいの水を持ってくるよう頼んだ。
「一体なにがあったんだ」
「父上…!と千寿郎が鬼に襲われました。千寿郎は腕に傷を負っていますが、浅く、無事です。ただが毒を受けたのか、危険な状態です。」
ただならぬ様子に父上も駆けつけてくれた。
久々に交わす会話に、俺の中で一筋の緊張が走る。
だがその次の、
「橘殿を呼んでくる。それまでの応急処置は任せたぞ。」
という言葉に俺は驚いた。そして、嬉しかった。
橘というのは、俺の祖父が剣士をしていた頃から懇意にしている医者だ。
「兄上!水をお持ちしました!手ぬぐいと救急道具も!」
「ありがとう千寿郎!今父上が橘殿を呼びに行ってくださった。俺たちはひとまず背中と腕の傷を縫おう。」
「父上が………っはい!」
俺たちはの襦袢を上半身だけ、素早く、しかし丁寧に脱がせた。
彼女の薄くしなやかな背中。
その玉のような白さの中にぱっくりと斜めに切れた傷が痛ましい。
年頃の女性の服を脱がすなど、どこか悪いことをしているようで反射的に目を逸らした。
しかし彼女の鳩尾でまた目が留まる。
そこには、あの上弦の参・猗窩座の腕が貫通した傷跡があったからだ。
"傷跡もすぐに消えたから、杏寿郎さんは何も気にしないで"
そう、笑顔で俺に言ったの顔が頭の中によみがえる。
痕は消えていなかったのだ。
無限列車での彼女との出会いから半年近く経つが、
まだ、俺ととの間には、踏み込めない溝があるように感じた。
(、俺は、君の何なのだろう…)
「…兄上!!!」
鳩尾の傷跡に釘付けになっていると、彼女の左腕の傷を縫い始めていた千寿郎から喝が飛んできた。