第14章 琴線に触れる
兄上やさんの炎の呼吸の技は、あまりの秀麗さと力強さで炎が見えるけれど、これは本物の火だ。
熱に包まれ喉が渇いた。
視線をさんに戻した時、目の前が一瞬で真っ暗になり、体が宙に浮いた。
「…息、とめていてね…?」
上から、いつもの優しいさんの声が降ってきた。
スゥゥゥゥ という呼吸音、わずかに震えている。
まさか…、と思った時、
ビュンッという移動音と共に一瞬の熱さ、そして体への衝撃。
さんが、呼吸を使って炎の外に脱出させてくれたんだ。
でもその後さんが動く気配がなく、俺は焦って自分をすっぽり包んでいる布、彼女の着物から顔を出すとそこには、
うつ伏せで苦しそうにもがく襦袢姿のさんがいた。
浅い呼吸、もうとっくに限界を超えていたのだ。
ひとまず彼女を安全なところに運ばなければと身を起こそうとしたとき…
「千寿郎!!!!!」
「兄上!!!」
「鴉から付近で鬼が出たとの報告を受け出陣したのだが、まさかこんな事態になっていたとは…!このままを家まで運ぶ。千寿郎、走ってついてこられるか?」
「…っ、はい!」
俺は大きな安心感で一瞬、全身の力が抜けそうになったが、そう悠長にしている場合ではない。
気合を入れなおし、斜め前を走る兄上に遅れまいと一生懸命走った。