第14章 琴線に触れる
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「ひぇっへ!どうだ~?」
鬼の大きくグロテスクな口元が、千寿郎の切れた腕に近づく。
あまりの怖気で今にも卒倒しそうな千寿郎だったが、
その舌が彼に届くことはなかった。
いつの間にか目覚めたの華麗な蹴りが鬼の首に入り、
両断はしなかったものの、鬼は1回転…2回転…3回転して吹っ飛んだ。
「さん…!だい…」
"大丈夫なのですか" と聞こうとした千寿郎だったが、がやけに涼やかな顔をしていること、
そしてその瞳が、いつもの透明感のある蘇芳色ではなく、もっと濃い、まるで出血しているかのような暗い赤味を帯びていたことに気が付いて、思わず言葉が詰まった。
さらに、は千寿郎には目をくれず、今しがた吹っ飛んだ鬼の元に飛び行った。
「グホォオ…」
そしてそのまま鬼に一時の隙も与えず、その首元を折れているはずの左手でつかみ、鬼の体をそばの木に押し付けた。
ブチっ、グチュ…
「グッ…ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!」
喉を握りつぶされた鬼は不快さから逃れたいのだろう、
の左腕を掴む両手にさらに力を入れる。
のその腕から、血が流れ出て止まらない。
彼女の足元の血だまりは、どんどん大きくなっていくが、は動じない。
形勢の変化に驚いていた千寿郎はの身に何が起こったのかわからず、ただ直視することしかできなかった。
だが…
(あの出血が続いたら…さんが危険だ…)
そう思って、の顔が見える位置に移動した千寿郎、
だが見えたのは…
悶える鬼を見据えて、恍惚な表情を浮かべるだった。
(!?)
動揺した千寿郎。
息をするのも忘れた。
は垂らしていた右腕をすっと構え、それを鬼の額めがけて…
ガコッ…ボキッ、ガッ…グシャッ…ガ、ゴン…
聞こえてくるのは何発もの鈍い音。
鬼の頭蓋骨が割れて脳みそが周囲に飛び散る。
それでもは腕を止めなかった。
もう、鬼の声はしなかった。