第14章 琴線に触れる
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「ったく、いってぇ…。あの女ほんとに人間なんかよ。蹴られたとこ、なかなか回復しねぇんだけど…なぁ坊ちゃん。あァ?」
鬼は意識を失ったを確認してから、隠れていた千寿郎に近づいた。
鬼…と、対峙したのは初めてではないが、
得物を持たない今、千寿郎は改めて人間の無力さを実感した。
(鬼に遭遇した一般市民は、こんな恐怖を感じているのだろうか…)
感じている恐怖心の針が振り切ってしまった千寿郎は、どこかこの状況を、他人事のように思っていた。
「まぁ…にしてもお前、珍しい髪色をしているな。瞳の色も…なんだこりゃ、こんなん見たことねぇなあ」
つと千寿郎の額にかかる髪をなでた鬼の手つきは優しかった。
その手は次に千寿郎の左腕をとり、傷をつけた。
「お前の血はぁ、うまいのか?」
そこから出てきた血を舐めようと口を近づける。
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が意識を失う直前に見たものは、こちらを向いて、絶望的な表情をした千寿郎だった。
「せ…ん、じゅ…く…ん……」
……毛先のみ緋色に染まる、橙色の髪………
…重なる……大好きな、杏寿郎…さん……
………上弦の参・猗窩座と戦った時…私は自分の命の事なんて、一切考えてなかった…
ただ、汽車の乗客…炭治郎くんたち………
…そして、杏寿郎さんが……
無事に生きて、朝を迎えてさえくれれば……自分の体がどうなってもよかったの………
でも…、今は、
…今は、稔さんと、杏寿郎さんに繋いでもらったこの命を……精いっぱい燃やしたい……
人を…これからも、鬼から救い続けるために…
でも…本当は、それ以上に……もっと鬼殺隊のみんな…千寿郎くん……杏寿郎さんと………一緒に、いたいの…
…ひとりは、寂しいから………
だから…やめてよ………
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