第14章 琴線に触れる
「お前らは…姉弟、じゃぁねえな?
…まあどうだっていいがぁ……情けねぇなあ小僧。お前女守れねえのか!どうせいつもそうやって誰かに守ってもらってばかりいるんだろう?弱小者であわれだと…」
「…これ以上!…この子を侮辱することは、わたしが許さない。」
「…あァ?」
「身体的な力の優劣だけが、人の価値ではないわ。でもそんな価値観しか持ち合わせていないお前たちの方が、私はよほど哀れだと思うと言っているのよ。…お前に人間を測る資格はない。」
「………ふっ。そうかい。威勢がいいこった。だが俺が殺して食ってきた奴らは、大体同じようなことを言ってたなァ…」
「………」
「はっは!お前、顔色が悪いぞ?苦しいか?
俺は攻撃に毒を混ぜていてな……どうだ?効いてきたんだろう!」
(毒…!?)
鬼の言葉に驚愕してさんをまた見上げると、彼女は首元に玉の汗をかいていた。
「さん…っ、毒って…」
「…千寿郎くん、これを預かっていてくれる?」
さんから彼女の番傘を受け取ると、"少し離れていてね"と言われたので、そばの木の陰に隠れた。
さんと鬼の間に流れる空気がビリビリと痺れるように感じられた。
(視点)
林に入った時からなにか、嫌な気配は感じていた。
それが確証に変わったのは、私たちをつけている足音が聞こえたからだ。
すぐに千寿郎くんを抱えて走り出したけれど、あっという間に追いつかれてしまった。
千寿郎くんを抱えていたとはいえ結構な速力を出していたのだけれど…
…この鬼は足が速い。戦わずして逃げ切るのは不可能だろう。
……もし、私がやられたとしても、
千寿郎くんをまだ日光のあたる林の外へ連れ出すのは絶対だ。
それに奴が言っていた通り、私は毒を盛られたようだ。
感じるめまいと悪寒。
…脈拍が狂う。
いつまで"呼吸"を使っていられるか、もはや時間との勝負だ。
それにしても、油断していた。
今わたしは日輪刀を持っていない。
まさかこんなことになるとは思ってもいなかったからだ。
まだわずかながら日が出ているのに…。
わたしは着物を緩め、構えた。
滅する標的も、その口角を上げた。