第12章 寡黙な人
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クリームソーダのバニラアイスが、氷の隙間にゆっくり沈んでいく。
その爽やかさとは反対に、私の体はぶわっと火照った。
蜜璃ちゃんはあの日、私と杏寿郎さんが夜の市街地でふたりでいたところを見かけたらしい。
「そ、それでねっ、後をつけていたわけじゃないのよっ、
声をかけようか迷っていて…そしたら、煉獄さんがちゃんになにか贈り物をしていたじゃない?ちゃんもすごく嬉しそうで…とってもいい雰囲気だわってキュンキュンして、声をかけずにいたら見失っちゃって…」
まさか…まさかまさか蜜璃ちゃんに見られてたなんて…
恥ずかしさで顔から火が噴きそうだった。
満面の笑みを浮かべるしのぶちゃんが視界に入る。
「もしかして煉獄さんからの贈り物は、そのブローチですか?」
しのぶちゃんの細い指が、私の羽織の上で輝く、あの菊の透かしの帯留めを指す。
「う、うん、そうなの!帯留めなんだけど、今日はピンをつけてブローチにしているの、任務の時は外すんだけど…」
動揺して、早口になっていただろうか。
どこか手持ち無沙汰で、助けを乞うようにストローに口をつける。
「やっぱり、そうよね!そのブローチとっても素敵だわぁ、今日ちゃんに会った時からずっと思ってたの!」
「すごく美しいです。甘露寺さんのお話を聞く限り、もうおふたりは想い合っているとばかり思っていましたが…違うのですか…」
「っ!!ケホッ、コホンッ」
しのぶちゃんが突拍子のないことを言うので、飲みかけていたクリームソーダでむせてしまった。
ふたりに心配されながら、お冷を飲んで落ち着く。
…想い合っている……そんなはずはない。
杏寿郎さんにとって私なんて、大勢の後輩の中のひとりに過ぎないだろう。
蜜璃ちゃんも含め、これまでたくさんの継子を育ててきたと言っていたし…。
私だって、杏寿郎さんに向けるこの気持ちは、かつて稔さんに向けていた感情と多分同じものだ。
「大好き…よ?何に変えても、大切な人…。でもこの気持ちは…敬愛、であって、恋愛感情では決してないわ。」
そう軽やかに言ってみせたが、ふたりの眉は悲しそうに、少し下がってしまった。